2020年7月の記事一覧 | ひびのあしあと

POSTS LIST

『「表現の自由」の守り方』を読んだ

ずっと前に購入していたのだけどやっと読んだ。買ったきっかけは表現の自由について考えたいからだったけど、読もうと思ったきっかけはなんだったかな‥‥ああそうそう、これだ。

「政治的中立性」ってなんだよってのと、こういった展示会の後援を行政が断る背景ってなんなんだろうっていう疑問。
あいちトリエンナーレの騒動が尾を引いているのかと思ったけど、以前からのことのようなのでどうやら違う。
どちらにしても、行政(権力)側が政治性を理由に承諾する・断るを判断するのはよくないなあと思う。表現の自由に影響が出る。

とにかくそれでようやく読んでみようとなったんだけど、まあ~落胆した。これで守られたのは表現の自由ではない。コミケだ。
コミケを守ることが悪いと言っているんじゃない。コミケを守っただけのことを、表現の自由を守ったと言ってしまっていることがよくない。
そもそも、なにを問題として表現の規制がされようとしているのかの認識が間違っている。

この本。まず謎の小説から始まる。
小説の舞台は表現が規制されたif日本。主人公は一応はプロデビューを果たした女性漫画家。しかし表現規制により思うように作品を発表できない。
もうね、ここから認識が違うの。
・女性の作品のテーマは「家族からの虐待」「義父からの性的関係の強要」なんだけど、これが原因で、出版社から「うちからは出せない」と言われてしまう。
・女性の人権を守るための規制のせいで、同じ女性である自分が職を失い、国を追われようとしている。

はあ~理解してないんですねって感想。

もし表現規制が進んでも、テーマがこれってだけの理由で規制されることはないでしょう。規制されるとすれば、虐待や性関係の強要を美しく肯定的に描いてしまった場合です。
そしてよく言われることですが、「女性の人権活動家が批判している仕事をしている人の中にも女性はいる」っていうやつ。だからなにって話なんだよね。
男性はそれが男性というだけで、間違ったことをしている人を許すのでしょうか。
もっとも、この物語の場合は作品を規制された理由に納得がいかない。この女性漫画家が批判されるいわれはない。現実の訴えをねじ曲げて利用し、女性の人権活動家をあたかも主人公の敵かのように描いている。
まあ~ひどい。

児童ポルノについて。
実在しない児童は守られるべきなのか否かという話なんだけど、これ、先に”外圧”とやらの話をすると見方ががらりと変わるんだよね。
まずね、国連人権理事会の意見を、意図的なのかなんなのかわかんないけど、若干ねじ曲げているの。
154Pより
 現実の加害行為が行われていないにしても、ヴァーチャル児童虐待記録物によって児童に対する性虐待を許容するような内容が示されることで、そうした行為に対する破壊の許容度を上昇させてしまう(国連人権理事会 特別報告者マコド・ド・ブーア=ブキッキオ氏)
が、
 マンガ・アニメ・ゲームで架空の児童の虐待が描かれると、児童の虐待行為を社会が許容するようになってしまう、とブキッキオ氏は主張している
と言い直している。
見比べてもらえばわかると思うけど、意味がちょっと違うよね。

「風と共に去りぬ」がなぜ問題になったのか。奴隷文化を肯定的に描いていたからだ。では性虐待の描写が問題になるのはどういうとき? 肯定的に描いたときでしょう。
著者の解釈では「許容するような内容が」が省略されている。そしてそれはそのまま、冒頭の小説に反映されている。
まったく間違っています。

さて、ブキッキオ氏の言い分を理解してからページを戻り、児童ポルノ禁止法について考えると、なるほど、実在しないからといって許容するわけにはいかないようだ、となる。
じゃあなぜこの順なのか。問題の本質を理解させたいのではない、あくまでコミケを守るために、自分の意見が正しいように見せかけたいだけなのだとわたしは感じた。さすがですね。
もっとも、ここでの著者の言い分、本来は実在する児童を守るための法律というのは正論ですし、具体的に働きかけたのは功績です。

コミケを守りたいだけと感じた理由は、一次創作者に対する配慮が感じられないから。著作権非親告罪化がもっぱら二次創作について語られている。
たしかにコミケや同人誌即売会は二次創作が占める割合が多いようだけど、もともとグレーなわけだよ。さまざまな事情があって黙認されているわけだよ。
でもなんか、この本だと「二次創作が漫画文化を支えてきた」とでも言いたげ。もうちょっと、こう‥‥配慮できなかったのか。一次創作者に対するメッセージはないのか。
言葉は選べという話」で触れたはてブの記事、言葉選びはアレだけど、訴えたいことには共感する。作者それぞれが自分の作品への気持ちを、もっと言えるようにしてほしい。
そうしないと「二次創作されたくなかったら発表するな」がまかり通るようになるぞ。冒頭の小説の日本よりもっと近いぞ。

これは悪口ですが、おおよそが著者の「言質取ったぜ!」「言ってやったぜ!」みたいな武勇伝で胸焼けがする。
あと自民党の改憲案、本当にダメダメだな。なんで憲法が国民の権利を制限するんだよ。憲法は国の権限を制限するものだぞ。そこ間違えるな。
ついでに議員どもよ、民間の創作物を一国民が批判しているだけのことにいちいち「わたしは支持します」とか意見しなくてよろしい。ツイッターって同じ意見の人が集まりやすくて、そうするとリツイートやいいねで盛り上がりが数値で出るから錯覚するんだろうけど、どんな批判であれ一国民の個人的な感想だ。
引き換えあなたたちは権力側だ。憲法で縛られる側だ。国民の持つ表現の自由を保障しなくてはいけない側だ。支持して当たり前だ。

というわけで、肝心の「表現の自由」についてはろくろく学べなかった。
まあ四年も前の本だし、今は著者も所属が違う。多少はアップデートされただろうか。児童を守るとかには熱心に動いているようだし、そういう方向で期待したい。